14歳の女の子、アンシが ロンドンから両親と共にサマーヒルにやって来ました。
彼女は前の学校で、宿直室の窓ガラスに小石を雨のように投げつけて、学校を追われたのです。
そこの校長は「感化院ですな。」と言ったそうです。
父親は、「この子はいたずらっ子ですが、正直で、可愛いところがあるのです。」と言いました。
母親は、「父親が甘やかすものですから、こんなわがままな子供になったのです。」と言いました。
ニイルはアンシに「この学校は自由な学校で、授業はあるけれども、授業に出ても、出なくてもよい。
他の子供の勉強や、やっていることを邪魔しない限り、好きなことをしていいのだよ」と言いました。
3日たった時、アンシはニイルに聞きました。
「ここは自由な学校だと言いました。あなたをぶってもいい?」
「いいとも。さあ ぶってごらん。」とニイルは言いました。
アンシは、げんこつを振り上げたかと思うと、ニイルにどっと打ってかかりました。力まかせにぶったり
蹴ったりしました。ニイルは黙ってかすかに微笑みながら打たれました。
アンシは気が狂ったように、ニイルの全身をところかまわず叩きつけ、むしゃぶりつきましたが、ニイルは
ただされるままでした。
ホールに居合わせた生徒や先生たちは、この有様に目を見張り、周りを取り巻いてはらはらして見ていました。
アンシはいよいよ激しく、1時間たっても、2時間たっても、3時間近くなっても、ニイルを打ち続けます。
その時、職員の一人がピアノの前に座って、ショパンのノクターンを弾き始めました。静かな美しい音楽が
流れました。
ふと、彼女は打つ手を止めて、そのままものも言わずに自分の部屋へ帰って行きました。
あくる朝、ニイルはアンシの顔を見ると呼びかけて言いました。
「おはよう、アンシ。今日もまた打つのかい?」
「ニイルは怒らないから、つまらないわ。」 アンシはそう言って、ニイルのそばから去りました。
間もなく、アンシは自由は我が儘とは違うということを、他の子供たちに折りにふれ、語って聞かせるようになりました。